特許と意匠は両方取るべき?違いと使い分けを元メーカー知財担当が実務目線で解説

新しい製品を開発したとき、
「これは特許を取るべき?意匠を取るべき?」
と迷うことがあります。

さらに、技術的な特徴もデザイン上の特徴もある製品なら、
「特許と意匠、両方取った方がいいの?」
という疑問も出てくるでしょう。

特許と意匠は、どちらも製品を守るために使える知的財産権ですが、守る対象も役割も異なります。

そして、実際の企業知財では「登録できそうだから出願する」というだけでは判断しません。

限られた予算の中では、
その製品の価値はどこにあるのか。
他社にどこを真似されたくないのか。
取得した権利で、本当に競合をけん制できるのか。

といったところまで考えて、出願する権利や優先順位を決めていきます。

私は大手メーカーの知的財産部門で22年間、特許や意匠を含む知財実務に携わってきました。

この記事では、特許と意匠の基本的な違いだけでなく、メーカー知財では実際にどのような視点で「特許・意匠・両方」を判断するのかを、実務目線で解説します。

目次

結論|特許と意匠は両方取れる。重要なのは「何を守りたいか」

結論からいうと、同じ製品について特許と意匠の両方を取得することは可能です。

大まかに考えると、技術的な仕組み・構成・使い方を守りたい場合は特許、製品の外観・形・デザインを守りたい場合は意匠を検討します。

技術と外観の両方に特徴がある製品であれば、特許と意匠を組み合わせて守ることもできます。

ただし、実務ではこの整理だけで機械的に判断するわけではありません。

重要なのは、「取れるか」ではなく「取る意味があるか」まで考えることです。

守りたいもの主に検討する権利
技術的な仕組み・構成・使い方特許
製品の外観・形・デザイン意匠
技術と外観の両方に特徴がある特許+意匠

特許と意匠を両方取る意味は?

たとえば、製品の内部構造に独自の技術があり、さらに外から見える形にも大きな特徴があるとします。

このような場合は、技術的な特徴を特許で守り、外観上の特徴を意匠で守る、という組み合わせが考えられます。

同じ製品でも、競合に真似されるポイントは一つとは限りません。

内部の仕組みを真似されることもあれば、消費者から見て分かりやすい外観だけを似せてくる可能性もあります。

そのため、製品の重要度や競争環境によっては、特許と意匠のように異なる制度を組み合わせて守る意味が出てきます。

ただし、特許と意匠の両方を取得できそうだからといって、必ず両方を出願するわけではありません。

実際の企業知財では、予算だけでなく、製品寿命、競合状況、権利を取得したあとに侵害を把握できるか、そしてその権利が事業上どれだけ意味を持つかまで考えて判断します。

つまり、「権利化できそうか」ではなく、「その権利に投資する意味があるか」という視点が重要です。

メーカー知財では「特許が取れそうか」だけでは判断しない

特許は「侵害を把握できるか」も重要

私が特許出願を検討するときに重視していたことの一つが、他社がその技術を使った場合に、侵害を把握できるかという点です。

たとえば、市販されている完成品を購入して分解すれば構造が確認できる技術であれば、他社が同じ技術を使っているか比較的確認しやすいでしょう。

一方で、工場内だけで行われている製造方法や、製品の外からは分からない内部処理などは、他社がその技術を使っていても確認することが難しくなります。

特に、完成品を簡単に購入できない大型製品やBtoB製品では、侵害の把握はさらに難しくなります。

製品を入手できなければ分解や確認もできませんし、外部からでは相手がどのような技術を採用しているのか分からないこともあります。

そのため、特許出願では「特許になりそうか」だけでなく、取得したあとに実際に使える権利になるかまで考える必要があります。

また、その権利を持つことで競合企業へのけん制につながるかどうかも、重要な判断材料になります。

意匠は「珍しい形か」だけではなく、販売戦略への影響を見る

意匠については、私は特に、その外観上の特徴が商品の訴求ポイントになっているか、そして見た目の印象にどれだけ大きく影響しているかを重視していました。

単に「珍しい形をしているから」というだけで、出願の優先度を高くするわけではありません。

たとえば、その部分のデザインを別の形に変えても、購入意欲がほとんど変わらず、広告で訴求する内容にも大きな影響がないのであれば、そのデザインを権利化する事業上の優先度はそれほど高くないと考えることがあります。

逆に、「この見た目だから選ばれる」「広告でもこの形を前面に出している」という部分であれば、意匠として押さえる意味は大きくなります。

つまり、意匠出願では、デザインそのものの特徴だけでなく、そのデザインが製品の販売戦略に直接関わっているかを見ることが重要です。

特徴的な筐体や外装、容器形状、操作部の形などは、こうした視点から意匠を検討しやすい例です。

なお、技術を保護・開示する方法としては、特許だけでなく実用新案を検討する場合もあります。
特許と実用新案の使い分けについては、別記事で実務目線から詳しく解説しています。

予算が1件分しかないなら、特許と意匠どちらを選ぶ?

実務では、特許も意匠も取得できそうでも、両方に予算をかけられないことがあります。

その場合、私ならまず「この製品の本質はどこにあるのか」を考えます。

外見や外装そのものが商品の魅力や価値の中心であれば、意匠を優先します。

一方で、使い方、仕組み、技術的な特徴に製品の本質があるのであれば、特許を優先します。

予算が限られる場合は、製品価値の中心により近い権利から優先順位をつける、という考え方です。

形そのものが機能を生み出している場合は?

難しいのが、形状と機能が一体になっている製品です。

ある特徴的な形にしたことで操作しやすくなったり、その形状だからこそ特定の作用や効果が得られたりするケースです。

このような場合は、特許と意匠の両方を検討する価値があります。

外観として特徴的であれば意匠で守る意味がありますし、その形状によって生じる技術的な作用まで守りたいのであれば、特許による保護も検討します。

もし予算の都合で一方を優先するのであれば、技術的特徴が製品の本質である場合、私は特許を優先することを考えます。

特許の請求項は、実際に製品へ実装した構成をそのまま書くだけではありません。

実務では、本来の実装内容を包含できるように、より上位概念化した広い表現をメインクレーム(独立請求項)に置くことがあります。

また、明細書には一つの実施例だけでなく、同じ技術思想に基づく複数の実施形態やバリエーションを記載し、実装例だけに限定されない権利範囲を検討します。

そのうえで、より具体的な構成や条件などをサブクレーム(従属請求項)として段階的に設定していきます。

ただし、単に表現を広くすれば広い権利が取れるわけではありません。明細書の記載で支えられていることや、新規性・進歩性などの特許要件を満たすことが前提になります。

一方で、形状が機能に関係しているからといって、直ちに意匠では守れないわけではありません。

見た目として特徴があり、商品の印象や販売上の訴求にも関わるのであれば、意匠による保護を検討する意味があります。

ただし、物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠は、意匠登録を受けられない場合があります。

そのため、形状と機能が密接に関係する製品では、「見た目として守りたい部分」と「技術として守りたい部分」を分けて考えることが重要です。

操作部なら意匠?それとも特許?

操作部は、特許と意匠の使い分けを考えるときに分かりやすい例です。

ボタンやレバー、操作パネルなどについて、見た目や形そのものが商品の特徴になっているのであれば、意匠による保護を検討します。

一方で、その形状や構造によって操作しやすくなったり、特定の動作が可能になったり、何らかの技術的な効果が得られるのであれば、特許による保護も検討します。

つまり、同じ操作部でも「見た目としての価値」と「技術としての価値」の両方が存在することがあります。

意匠で外観を押さえるだけでは、その操作によって実現される技術的な作用そのものまで保護できるわけではありません。

意匠は「全体」だけでなく、部分やバリエーションも守れる

全体だけでなく「部分意匠」も考える

製品全体を意匠として出願するだけでなく、特徴的な一部分を意匠として保護することもできます。

私が部分意匠を検討するときに重視していたのは、その部分が特に目につきやすく、商品の訴求ポイントになっているかどうかです。

たとえば、製品全体の中でも特徴的な操作部や外装の一部分など、「ここがこの商品の印象を大きく左右している」という部分があれば、全体意匠とは別に部分意匠として押さえることを検討します。

製品全体ではなく、競合に特に真似されたくない部分を狙って保護するという考え方です。

デザインバリエーションがあるなら関連意匠も検討する

商品開発では、一つのデザインだけで終わるとは限りません。

複数のデザイン案を作り、そのうち一つを発売時に採用し、別の案を将来モデルで採用することもあります。

そのような場合に検討できるのが、関連意匠です。

私は、将来的に採用する可能性が高いデザインバリエーションや、メインとなるデザインと似ているものの同一ではないデザインについて、関連意匠として権利化することを検討していました。

複数のバリエーションを押さえることで、競合による似たデザインへのけん制につながる場合もあります。

事業面から考える知財投資

製品寿命と技術トレンドも判断材料になる

特許では、製品寿命や技術トレンドも出願後の判断に大きく影響します。

出願したからといって、必ず最後まで権利化を進めるわけではありません。

たとえば、審査請求までの間に技術が陳腐化したり、事業上の重要性が低くなったりした場合には、あえて審査請求をせず、そこで権利化を終了することもあります。

反対に、数年経っても技術トレンドが変わらず、自社の事業にとって重要な技術であれば、そのまま権利化を目指します。

つまり、製品や技術の寿命を見ながら、どこまで知財投資を続けるかを判断することも重要です。

競合が少なくても、重要な事業なら知財投資は必要

競合の有無だけで、特許や意匠への投資を判断するわけではありません。

現時点では競合が少なくても、その製品や技術が自社の成長事業や根幹となる事業に関わるのであれば、将来の競合参入を見据えて知財への投資は必要だと考えます。

反対に、事業上の重要性が低く、今後の展開も限定的であれば、取得する権利や出願件数を絞ることもあります。

つまり、競合状況だけでなく、その事業が会社にとってどれだけ重要なのか、将来どこまで成長させたいのかまで含めて判断します。

結局、特許・意匠・両方をどう判断する?

ここまでの内容を、実務上の判断イメージとして整理すると次のようになります。

もちろん、実際には予算や製品寿命、競合状況、事業上の重要性なども含めて総合的に判断しますが、まずは「その製品のどこに価値があるのか」を考えると整理しやすくなります。

製品・事業の特徴主に検討したい権利
技術的な仕組み・使い方が中心特許
外観・外装が商品価値の中心意匠
形状そのものが機能を生む特許+意匠
特徴的な筐体・容器意匠
見た目が特徴的な操作部意匠
操作部の構造に技術的特徴があり、外観にも特徴がある特許+意匠
外観上、特に訴求力のある一部分部分意匠

まとめ|「どちらが強いか」ではなく、製品のどこを守るか

特許と意匠は、どちらか一方が優れているというものではありません。

大切なのは、その製品の価値がどこにあり、競合にどこを真似されたくないのかを考えることです。

技術的な仕組みや使い方を守りたいのであれば特許、外観やデザインそのものが商品の価値に大きく関わっているのであれば意匠、そして両方に重要な特徴があるのであれば、特許と意匠を組み合わせることも考えられます。

ただし、企業の知財実務では「権利が取れそうか」だけでは判断しません。

侵害を把握できるのか、商品の販売戦略に関わるデザインなのか、製品や技術の寿命はどのくらいか、競合や将来の事業にとってどれだけ重要なのか。

こうした要素を総合的に見ながら、どの権利にどこまで投資するかを決めていきます。

特許と意匠で迷ったときは、まず「何を守りたいのか」「何を真似されたら一番困るのか」から考えてみると、選ぶべき権利が見えやすくなります。

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